この曲を初めて聞いた時、なぜか「窓辺でビールを飲むおじさんが絡み酒をしている」風景が浮かんだ。暑い夏の日、ビートルズの「A Day In the Life」を聴きながら窓辺でビールを飲み、走っていた少年を呼び止め
「戯言だから聞き流してくれよ」
なんて笑いながら適当なアドバイスをしているおじさんだ。
これは多分、この曲のサウンドと歌詞のせいだろう。
この曲の1番はずっと情景描写的歌詞で進んでいくのだが、サビの最後に「帽子を風に飛ばされた少年」が出てくる。そして2番サビではおじさんの考えてることが歌詞になり、大詰めでは
「生きて死ねばそれで終わりじゃないでしょう」
という歌詞とともにブレイクし、なんともエモーショナルなギターソロへ繋がっていく。
この歌詞は、きっと少年にあてた言葉だ。そして、少年に向けて一番言いたかった言葉でもある。だからあのエモいギターソロの前にどんっと持ってきたのだ。酔った勢いで呼び止めたか、はたまた心の中で留めておいたか定かではないが、彼は少年に向けて言葉をかけた。そんな風景が歌詞とサウンドに散りばめられている。
この曲はくるりのボーカルである岸田繁が、若者たちに向けて書いた曲だと感じた。ビールを飲むおじさんが岸田で、帽子を飛ばされた少年が若者たちだ。彼にとって若者たちは風景に紛れ込み、ウザったく思われてもいいから声をかけたくなるような存在なのだろう。
最近の若者たちは疲れている。SNSなんかで見る彼らはなんだか忙しなく、寂しそうでもある。きっと各々にとっては大きなことなのだろうが、傍から見れば「帽子を飛ばされた」ように、小さなことにも思えるだろう。忙しなく働き、疲れ、寂しそうにしている若者たちに岸田が「生きて死ねばそれで終わりじゃないでしょう」と言葉をかけたのは、彼らの忙しない人生を思って絡み酒をしたくなったのかもしれない。
酔っ払った岸田がかけた戯言みたいな言葉に、若者たちはどう反応するのだろうか。ハッとさせられるのか、はたまたウザったく感じ軽くあしらうのか、今後の若いリスナーたちの反応が楽しみである。
今日の入魂曲Today’s Soul Song
曲名:ソングライン
アーティスト名:くるり(Quruli)
概要:京都府出身のロックバンド。ロックバンドという一言では括れない多彩な音楽性を持つバンド。また、音楽フェス「京都音楽博覧会」の主催者。